秋の日誌

Autumn Journal

荊棘が満ちる

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2018年10月13日(土) 曇り

明日のロードレースに備えて、新潟県越後湯沢駅前の旅館に泊まっている。夜は地元の呑み屋を予約している。喉黒(アカムツ)の丸焼きとしめじの天麩羅を食べようという趣向だが、店が開くまであと数時間ある。僕は部屋にこもって、音楽を聞きながら読書をしている。旅先でも普段の生活とたいして変わりはない。

家から持ってきた朝日新聞の十三面にケイト・ラワース(オックスフォード大学・経済学)のインタビュー記事が載っている。彼女の著書「ドーナツ経済学が世界を救う」(河出書房新社)を踏襲したもの。右肩上がりの成長を前提とした主流派経済学を批判し、循環型のシステムをサポートする理論の構築と啓蒙に力を注ぐ。現状を“旧弊な世界”と断じ、価値観の転倒を目指す道には常に荊棘(いばら)が満ちる。埃をかぶった価値観に囚われているのは必ずしも前世紀に人生の大半を送った人々に限らない。十代、二十代の頑迷さ、古臭さを侮るべきではない。無知と未経験は人を枯らす。

書評欄の広告面で、岩波書店から加藤周一、堀田善衛に関する本が出版されることを知る。前者は加藤周一と親交のあった鷲巣力による評論。後者は堀田善衛の娘(堀田百合子)が執筆した評伝。いずれも鬼籍に名を記された男たちだが、その思索の瑞々しさ、スケールの大きさにおいて次世代に通用する新しさ、前衛性を保っている。

新聞と合わせて、旅の友に「元年春之祭」(陸秋槎、稲村文吾、早川書房)をバックパックに忍ばせてきた。前漢時代の中国を舞台とした本格探偵小説。「13・67」(早川書房)の台湾人作家 陳浩基といい、近年、華文本格探偵小説の躍進が華々しい。陸秋槎は1988年北京生まれの中国人だが、日本の新本格探偵小説の洗礼を受けて作家を志した。綾辻行人、法月綸太郎、有栖川有栖、北村薫、京極夏彦、そして、彼らの指導者としての島田荘司。日本における本格探偵小説の衣鉢を継ぐのが中華圏の若手作家であるという現象はとても興味深い。

ドーナツ経済学が世界を救う

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加藤周一はいかにして「加藤周一」となったか――『羊の歌』を読みなおす

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ただの文士――父,堀田善衞のこと

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13・67

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元年春之祭 (ハヤカワ・ミステリ)

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